『星の辞典』(柳谷杞一郎著、雷鳥社)に月の名あまた載りゐたるを、歌に詠み込むは例なきもの多くて、なかなか月のつら汚しにやと憚られつつも、いにしへの歌人とて涙に月影をやつしにけるなきにしもあらず、さらば同じこととて、手習がてら。沈み行く方、宿る水辺も定かならねど、ゆめゆめあしからずとなむ。
# 新月
朔の闇やこころのあやなさにあるかなきかの恋をするかも
# 眉月
つれなくて髪のかかりのほのかなる影もあはれも見えぬ眉月
# 初月
見え初めし月のひかりのはかなさに袖の露さへおきどころなく
# 三日月
尻目にて鎌をかけたる三日月もすげなくかこつ我ならなくに
# 繊月
繊月の糸より細き命もてかくる思ひし神も受けなむ
# 上弦の月
天かける上つ弓張とけもせで夜半にやゝがていらむとするらむ
# 十日夜
かへりゆく亥の子言祝ぐ山里はひとり案山子ぞ月の友なる
# 十三夜
恋しさに暮るゝが先とあくがれて後の月にも惑ふこころか
# 待宵月
ながめじよ思ひは空にありながらここにて明日を待宵の月
# 十五夜
まどかなる君が三五のおもかげを忘られでこそ我はゆくらめ
# 無月、雨月
情けなの影さへ見えずかきくらし降りくる雨に袖は濡れつつ
# 虧月、盈月
うばたまの夜空に白きouroboros虧くるとみればまたぞ盈ちくる
# 満月
山のはの露にこころをむすびおきてよすがら見まくほしき望月
# 月天心
天高み四方を照らせる影冴えて月天心に氷る冬の夜
# 十六夜
たけなはの恋のゆくへを探しわびてはつかに陰る十六夜の月
# 更待月
やすらひてふみ出せぬまゝ過ぐる夜もとかくせしまに更待の月
# 下弦の月
有明と見るさへつらき思ひ出をかしこく遣らへ下つ弓張
# 二十三夜待ち
今一度あの夜のあはれ待ちながらむなしく昇る真夜中の月
# 二十六夜
忘れてよ二十六夜の月影にはかなく燃えし思ひ託して
# 月前
あのひとの浮いた噂を聞きしよりわれ月前の靄となりぬる
# 朧月
懐かしく思ひやられて朧月さやかに見えし君やまぼろし
# 薄月
乙女子やゆめな溺れそ恋なんてふりさけ見れば夜半の薄月
# 水月
ひとのよの鏡花水月愛でつつも触れでやみなん南無弥勒仏
# 寒月
寒 月 や 鍋 を 妬 む に 1 光 秒
# 雪待月
こころあるひとに見せばや雪待の月の宿借る袖の氷を
# 佳月
さだめなきよのもの言ひはさもあらばあれこころづからの佳月なりけり