先日、行きつけのバーで「月の石」をボタニカルに加えて蒸留したジンを飲みました。「石…ってもはやボタニカルと言えるのか?」というツッコミはさておき、味はかなりよくて、同国ベルギーで三姉妹の蒸留家が作っているジンとよく似た系統の、フローラルで、飲み口やわらかい、女性的な印象。でも複雑な要素それぞれの輪郭がはっきりしていて、飲みごたえもありました。
「月の石のジン」についてマスターと話しているとき「だいぶスピってるよね」という言葉を聞いて、そのときは「あ、いいなその言葉」という程度の感想だったのだけれど、帰ってきて歌にしてみようと思ったとき、ふと別の疑問に遭遇します。「そういえば、醸造酒には”醸す”という動詞があるけれども、蒸留酒には該当する動詞が無いなあ。」
「蒸(ふか)める」とか「留(と)める」とか単純に字を取ってきて訓読みにしても、なんかその作業をしている人へのリスペクトを表現しきれない気がしまして。ひとを感動させるすごいものを作っているのだから、”醸す”に勝るとも劣らないくらい奥ゆかしい動詞が欲しいところではあります。

が、今のぼくには無理でした。文明開化を支えた明治の知識人のような東西の素養もない上に、SNSのインフルエンサーのように時代の空気の表層をサラッとさらっていくセンスもありませんし。そんなわけで真剣な造語を放棄した刹那に、ふとバーのマスターの言葉が浮かびます。スピる? ああ、それか。
スピ・る
なんちゃってわが辞書
①スピリチュアルな言動や行動をする
②丹精を込めて蒸留酒をつくる
なるほど蒸留酒のことをspiritsというから、これはかなりしっくりくる。しかも蒸留のときに液体を沸騰させてポットスチルの上部から気体をあふれさせるイメージは動詞のspill(粉や液体をこぼす、撒き散らす)に通じなくもない。なんだ、ここに落とし所があったわけか。5次元もいいけれど、4±0.5次元くらいが歌詠みには心地よい気がします。円満の一歩手前や月と花
月の石スピりし雫ふくよかにたゆたふ思ひゝさかたの空
ごちそうさまでした