『星の辞典』に「月」の章があって、いろいろとニッチなことも載っている中に、月の海についての説明があります。月面において玄武岩で覆われた平原部分のことを「海」と呼びます。小さいものは「湖」と呼ぶそうですが、その中に「夢の湖」と命名されている湖があるらしく、これは素晴らしいと思って歌の題に取り上げてみました。
# 夢の湖に寄する恋
君がためこゝろは空にあくがれて寝てもさめても夢の湖
ひさかたの夢の湖はかなくて浮かぶ枕を思ひこそやれ
寝覚めさへ夢のつゞきと思はゞや涙に浮かぶ床のさむしろ
湖の水をなみ路もたどられでかへるうつゝに濡るゝ涙か
君のゐる夢の湖ゆかしくて桂の森へ迷ひ入る僕
袖にうつる月の光をしるべにて潜くや深き夢の湖
沈みゆく夢のみづうみ底をなみねなしの恋に落つる我かも

# 天女と夢の湖
霧込むる夢の湖ほとりにて人に知られで禊する君
夢にだに捉へてみばや白鳥の翼のごとき愛しき腕を
# 夢の水系
音無の滝にぞ出でし水無瀬川つひにやそゝぐ夢の湖
月の海には水が無い、という点もどこか美的ですよね。さて、星の海へ注ぐ天の川水系は宇宙アマゾン級だけれど、夢の湖はプラトー(学習高原)のはずれに位置しています。忘れ水がちょろちょろと草間を流れているのも、おそらくその辺りでしょう。ぼくは村上春樹の『世界の終わり』みたく多くは語れないけれど、虹色の靄の切れ間からのぞくセカイの断片を繋ぎ合わせれば、自分だけの宇宙地図くらいは描けそうな気がしています。