やまとうたは、いまだあめつち闢けざりしとき、巌の淵に蒸す苔の上の、露の涙のたまの奥より、こころに余りしよしなしごとの、よろづの言の葉とぞなれりけるにや、ちはやふるめかみのゐます高天原にも、小さな茅葺きの屋根が下にも、みな等しくあはれを催し、情に棹させばゆく川の流れはやくして、あれと足元をすくはるるもまた、よろこばしからずやと言ふもさらなり、いづれの御時にもまつろはぬ民の、茨の藪のささがにのいと厳しうて居たるが中にも、都においてかなふまじき、筋金入りのひがものひとり、諸行無常の花や盛りに、色即是空と恋路に迷ふも、盛者必衰姨捨の月と、空即是色に慈悲を悟れる、その甲斐渚も凪の黄昏、梟携へ出で立つ過客の、百代結ぶ草の枕に、浅き夢路も行き酔ひあへず、旅寝の床の月のさやけさ、冴ゆる袂に恋ふるおもかげ、きみがつらさに燻る思ひは、絶えぬ煙や富士の高嶺に、劣らじものと競ふも徒と、花の都を名にし負ふ鳥へ、待つ人問ふもむなしき夜半に、稲妻わたる寝覚めの霧も、霞に曇る沖のあしたも、身を尽くしては烟る瞼の、二見の浦にうらやましきは、夫婦に立てる岩の標縄、しめてもあらぬ帯の衣を、打ち解けばやの願ひむなしく、御手洗川に禊せずとも、清き頼みは神も受くやと、糺の森にかくる誓ひに、ひとづてならぬ逢坂山を、ひとことならでものを思へば、さがなくひとは伊吹のもぐさ、さしも白河勿来の関に、道もせに散れどこ吹く風と、世に情けなきわが身ひとつを、思へばとしも杉立てる門、開けて別るる横雲の空、ながめてふるや石の上にも、三年あまりてみそぢ半ばの、老いの影さへ見ゆる頭に、浅くもあらぬ心づもりと、つもりそめたる峰の白雪、見まがふとても吉野の桜、咲くや此の花難波津の、芦の片葉に風をよみつつ、流石にかたきひとりねの、肩敷く袖に宿る光を、集めて早き五月雨の頃、生まれし思ひ書き暮らし、窓の蛍もはかなの功と、令月風和のありがたきよにも、日の目に行きあへぬ影の藻屑なるままに、わかの浦かたを波路ゆさすらへば、あやしうも物狂おしくも、いとをかしく、ものやあはれと、みるにもきくにも忌みじう楽しき心地こそすれ。
反歌
わかのうら
かたをなみぢにさすらへば
みるもたのしき
ここちこそすれ